画用木炭について

画用木炭の材料と作り方

画用木炭の材料は、小枝の皮を剥ぎ適当な長さに切った「枝材」と木の幹を機械製材で小割りにした「幹材」とに大きく分けられます。
「枝材」には、ヤナギやクワのように中心部に柔らかい組織でできた髄があり、そこが木炭の芯と呼ばれる部分になります。
「幹材」にはクリ、カバ、ハン等など、木炭にしたとき硬軟・濃淡など描き味に特色がでるさまざまな樹木が使われています。

これらの材料を乾燥させてルツボに詰めて密封し、窯に入れて蒸し焼きにして炭化させます。
木材は一般に150℃で炭化が始まり300℃近くでその諸成分が分解し、400℃位になって炭化が完了します。さらに窯の温度600℃以上になるまで上げて加熱精錬することにより炭素純度の高い焼きムラのない木炭に仕上がります。

自然のままの樹木が原料ですから、同じ木でもその種類、樹齢、生育場所や取り入れの季節によってその質が異なり、また火加減などの焼き具合により、その色合いや硬さなどに微妙な違いがあるため、均質性という点では合成加工したコンテ等に劣りますが、一本々々に個性ある味わい深さがあります。

人類が火を使用するようになったときから炭はいつも身近にあったので、筆記や描画の道具として用いられてきたものと思われます。画用木炭はその製法としてはただ樹木を炭にしただけの極めて簡単素朴なものですが、その歴史は古く人類最古の描画材料といえるでしょう。

画用木炭の色合い

木炭の黒色は、鉛筆、コンテ等とは異なる独特な色合いを持っています。軟らかく伸ばしやすいという特徴を活かして、消したり描いたりを繰り返すことにより同じ黒色でも微妙な色合いの差異を表現することができます。さらに、濃淡の異なる様々な材料の木炭を使えば、色合いは一層変化に富んだものになります。もちろん色合いの変化だけではなく木炭の腹を使って広い面積を軟らかい調子で描くことも、切っ先で鋭い線の表現も可能です。

しかし、なんといっても明暗の表現や、調子の表現については描画材料のなかで画用木炭が最も適しているといえるでしょう。ただたんに同じ黒色といっても、そのグラデーション(階調)は変幻自在であり、その色調は他に類をみません。
したがって、木炭の美しさの秘密は色そのもの自体よりも、むしろ調子(トーン)の深さにあるといったほうがふさわしいかもしれません。

画用木炭の使われ方

画用木炭は、あらゆるデッサン材料の中で、着きがよく又伸びもよく、一番消しやすい描画材料といわれています。その簡便さのゆえに、ルネッサンス期にはデッサンに広く木炭が使用され画家達の習作やスケッチ、背景画の下描き用などとして、またフレスコ画の下絵の転写用としても用いられてきました。
また、完成した木炭画としては、マティス、ルドン、ドガ、クールベなど西洋の画家達や安井曾太朗などが、木炭による明暗の調子の美しいすばらしい素描をのこしています。

現在でも画学生のデッサンの基礎学習には欠かせない材料であるばかりではなく、美術家の下描きやスケッチなど、さらにパステル、チョーク、クレヨン等と併用したデッサン画用としても、また、日本画では輪郭の当たりをつけるためなどに幅広くいつまでも親しまれています。

画用木炭は非常に素直でやさしい材料であると同時に、非常に自由で深みのある特性を備えています。伊研ではその自由な特性を充分発揮できるように、また昨今のデッサン技法の多角化にお応えするため、さまざまな特長のある木炭を製造しております。